ベルギー便り 05~フランス日帰り2回、LaMとChristian Berst
2026年06月09日
6月4日にフランス北東部の都市リールに、5日にはパリに、2日連続で日帰りで行ってきました。ブリュッセルからリールは、ローカル線を乗り継ぐと1時間半、割高なユーロスターなら30分、パリはユーロスターで1時間半、ローカル線だと3時間以上かかります。
リール近郊のヴィルヌーヴ・ダスクには、アラシン・コレクションという著名なアール・ブリュットのコレクションを収蔵しているLille Métropole Musée d’art moderne, d’art contemporain et d’art brut(LaM)があります。パリのポンピドゥー・センターと共催で開催されている企画展「Kandinsky face aux images」の会期末が近づき、平日にも関わらず多くの観客で賑わっていました。カンディンスキーの展覧会では、画家がイメージソースとして用いた雑誌の写真や様々な素材が展示されていました。「青騎士」の機関誌のレイアウト見本など、興味深い資料が多く見応えがありました。


常設展示室はアール・ブリュットのために増築された新館部分があいにく閉鎖中でしたが、旧館の展示室では「Obsession」と題したコレクション展を開催していました。「近代美術、アール・ブリュット、現代美術の対話を通して、20世紀から21世紀にかけての反復、永続性、創造の力強さを探求する」という意図のもと、マッジ・ギルとルイーズ・ブルジョワが併置されるなど驚きの多い展示でした。


アール・ブリュット部門主任学芸員のサヴィーヌ・フォーパン氏ともお会いし、お話をお聞きしました。同館では、アール・ブリュットと近現代美術を併置した非常に興味深い企画展をこれまでいくつも開催してきましたが、常設展示室でアール・ブリュットとそれ以外のコレクションを展示したことは数えるほどしかないとのことでした。ポンピドゥー・センターにアール・ブリュットの作品がまとめて収蔵されたことは大きいが、フランスにおいてそれが一般的なことというよりは特殊なことで、まだほとんどの美術館はアール・ブリュットを収蔵することに関心を持っていないというのが現状のようです。
パリでは、アール・ブリュット専門のギャラリーとして25年以上の歴史を持つ画廊「Galerie Christian Berst」を訪問してベルスト氏にお話をお聞きしました。ギャラリーでは、キューバのアーティスト、ダミアン・バルデス・ディラの個展を開催中。木片やプラスチックや金属の廃材をつなぎ合わせて高層ビルや戦闘機などを思わせる彫刻を制作するアーティストとして有名ですが、展示されていたドローイングも興味深いものでした。彼が育ったバハマの都市が攻撃を受ける様子を俯瞰的に描いたものですが、襲来する戦闘機のほとんどが都市の攻撃により撃ち落されており、都市の建物に対する作家の思いが伝わります。そう思って建物の彫刻を見ると、レーダーや大砲を思わせる部分もあり、絵画との連続性が感じられます。

通りを隔てた向かい側のアネックスでは、やはりキューバのアーティスト、ラサロ・マルティネス・デュランの個展が開催されていました。旧式のテレビ受信機を紙で作り、その画面に当たる部分に雑誌や新聞のコラージュと線描でイメージを表現した作品からは、作家が関心を寄せるキューバの日常生活や政治的な社会状況が描き出されているように見えます。

ベルスト氏によると、顧客のほとんどはアール・ブリュットも現代美術も分け隔てはなく収集しているとのことで、それは25年前とは少し異なる状況だとのことです。アール・ブリュットのマーケットは相変わらず小さいもので、パリでアール・ブリュット専門のギャラリーはいまだにここだけだそうです。ポンピドゥー・センターにアール・ブリュットが収蔵されたことで、それを知った人は増えたが、それがそのまま急速な市場の拡大につながっているわけではないとのことです。とは言いながらも、ひっそりとした裏通りにあるギャラリーには来客が絶えることなく、決して関心が低いとは思えない様子でした。昨年のグランパレでのアール・ブリュット展もあって、新聞や雑誌もアール・ブリュットに注目するようになっており、対応しきれないくらい取材や原稿の依頼は増えているそうで、そのような普及活動も大切な仕事だととらえているとのことでした。こうしたベルスト氏らの取り組みが、やがて市場の拡大につながるのだろうと思います。
