服部正 研究室 ウェブサイト

甲南大学文学部人間科学科に所属する服部正(美術史、芸術学)のウェブサイトです。
アウトサイダー・アート、アール・ブリュット、障がいのある人の創作活動などを研究領域として、調査研究、著述、展覧会の企画などを行っています。

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ゼミでの見学会(芦屋市立美術博物館_植松奎二展)

2021年05月02日

2021年4月20日に、ゼミで芦屋市立美術博物館で開催中の展覧会「植松奎二 みえないものへ、触れる方法――直観」を鑑賞しました。

その様子を大学のウェブサイトでレポートしましたので、お知らせします。
https://ch.konan-u.ac.jp/information/information/category-11/1530.html

気が付けば1年8ヵ月ぶりのブログ更新。忙しくて時間がないと思っていましたが、私より忙しくてもSNSをまめに更新しておられる方が大勢おられるので、どうやら私は自分の日常を人様にお知らせすることにあまり関心がないのだと思います。

ということで、時々は更新を心がけますが、引き続きインフォメーションでの出演情報や掲載情報の告知を中心にサイト運営していきます。(この情報も大学サイトへの掲載情報という性格が強い)。

『昭ちゃんの画帖』調査

2019年09月27日

昭和25年に発行された『昭ちゃんの画帖』という作品集が手許にあります。知的障害児を対象とした日本最初の養護学校、大阪市立思斉学校(現在の大阪府立思斉支援学校)に通っていた山村昭一郎さんが描いた昆虫や動物の絵を紹介した小冊子です。鋭敏な観察眼でとらえた生き物の姿が、巧みな筆致で生き生きと表現されており、その高い技術力に驚かされます。昭和30年代にはしばしば新聞や雑誌でも取り上げられ、「大阪の山下清」と話題になりましたが、現在ではそのことを知る人も少なくなりました。

このたび、公益財団法人大阪特別支援教育振興会常務理事の吉田敏朗先生、大阪府立思斉支援学校の長尾浩一先生にご縁をいただき、同校に残る資料を調査させていただきました。同校に保管されているいくつかの作品も拝見し、未見だった文献資料も数多くご紹介いただきました。吉田先生、長尾先生、ありがとうございました。調査はまだ緒に就いたばかりで、成果をまとめるにはしばらく時間が必要ですが、折をみて継続的に取り組んでいきたいと思ってます。

文化庁・・

2019年09月27日

文化庁の「あいちトリエンナーレ2019」に対する補助金不交付の決定には驚きました。自由な表現活動が行われるために、超えてはならない一線だと思います。展覧会にせよ演劇にせよ映画にせよ、助成金の申請段階ですべての表現内容や出演者や警備体制が確定していることはあり得ません。先進的で野心的な取り組みであれば、一層不確定要素は多く、そのこと自体がその取り組みの豊かな発展性を保証するものでもあります。このような事後の決定があり得るということを想定すると、助成金の申請、審査、交付決定、事業の実施、成果報告を単年度で行うという、現在行われている多くの文化的助成金制度のフロー自体が成り立たなくなるでしょう。

アーティストが中心となって、抗議の意思を示すための取り組みも行われています。
詳しくはこちら

学会、調査、その他。

2019年09月14日

気がつくと、前回の投稿から2ヶ月以上経過していました。頻繁にブログやFacebookやTwitterを更新しておられる方々を心底尊敬します。投稿できなかったのは、何も書くべきことがなかったというよりは、あまりに色々あって、ブログのことを考える余裕がなかったからです。以下、近況報告を兼ねて前回の投稿以降にあったことを箇条書きしておきます。

神戸市北区のしあわせの村で開催される「心のアート展 2019」に審査員として参加しました(7月12日)。詳しくは、会期が近づきましたら「インフォ」でお知らせします。

以前にインフォでお伝えしたように、広島県立美術館で「民族藝術学会第153回研究例会」を企画しました(7月13日)。発表者の福田浩子さんのご尽力で、県立美術館の友の会の方々も多く参加してくださり、とても充実した例会になりました。

共同研究員として参加している国際日本文化研究センターの研究プロジェクト「縮小社会の文化創造:個・ネットワーク・資本・制度の観点から」の研究会で、「アール・ブリュット、共生という名の分断」というテーマで発表を行いました(7月27日)。学際的なメンバーの研究会で意見交換ができて、とても刺激になりました。

オランダとベルギーに障害者の創作活動についての調査に行ってきました(8月16日~28日)。改築工事中の「マッド・ミュゼー」を見学して美術館のスタッフの皆さんと意見交換をしたり、障害者のためのアトリエをいくつも訪問したりと、充実した調査を行うことができました。書き始めるときりがありませんが、とりあえず一つだけご紹介しますと、ヘントのギズラン博士博物館でやっていた「血液検査」という展覧会がとても刺激的でした。ダウン症の出生前診断の問題を、ダウン症の人とアーティストが一緒に考えるプロジェクトで、アーティストと障害当事者が協働しながら美術や音楽や舞台などで作品化して、その結果を展覧会として紹介するものでした。障害者の作品を壁にかけているだけでは分断は止められないし政治は変えられない。そのような強い意志が感じられました。

犬島と豊島にゼミ生13人とゼミ旅行に行ってきました(8月30日~31日)。台風を心配しましたが、幸いお天気にも恵まれ、犬島精練所美術館、犬島家プロジェクト、豊島美術館、豊島横尾館など、現代美術を堪能した2日間でした。豊島のボルタンスキ―の心臓音のアーカイブで自分の心音を登録する学生もちらほらいて、学生たちにも良い学びの機会になったのではないかと思います。豊島のレンタル自転車がいつの間にか電動自転車になっていて快適に島内を散策できました。

滋賀県立膳所高校の美術の時間に招かれ、「アール・ブリュットと障害者支援」というテーマで授業をしてきました(9月6日)。滋賀県という土地柄、他の講演者の皆さんはアール・ブリュットの意義や可能性についてお話しされているだろうと思い、アール・ブリュットという考え方での障害者支援には限界があるという逆の立場からお話をさせていただきました。多様な考え方があるということを示すことは、フィルターバブルを回避するためにも大切なことだと伝えたかったのですが、やや虚を突かれたような雰囲気の学生さんが多かったように感じました。帰り道では自分の話の拙さに少し落ち込みました。

また、この間に3回、落穂寮での作品調査を行いました。その成果は随時「調査研究プロジェクト」にアップしていきます。

第66回日本病跡学会総会シンポジウム

2019年07月09日

龍谷大学で開催された第66回日本病跡学会総会のシンポジウム「『アール・ブリュット』っていったい何?-膝の悪い人たちの芸術の今とこれから-」で、7月7日(日)に「二つのアール・ブリュット――戦後フランスと現代日本」という演題で発表をしました。ジャン・デュビュッフェの定義を考えると、現代において障害者支援のための概念としてアール・ブリュットという言葉を使用することには問題があるという、あちこちで話したり書いたりしているような内容ですが、今回は病跡学会という場なので、デュビュッフェの1949年の定義について少し詳しめに話をしました。

質疑応答の時間が短めだったため、どれくらい学会に参加していた皆様に関心を持っていただけたかどうかはよく分かりません。普段のこのような機会とは違って、終了後に個人的に質問に来られる方がほとんどなかったので、あまり関心のない話題だったのかもしれません。私自身は、シンポジウムでご一緒した華園力先生や三脇康生先生と議論を深めることができたので、とても有意義で貴重な体験でした。

いずれ学会全体の報告書が出されるそうですので、関心のある方はそちらをご覧ください。出版されましたらインフォメーションのページでご案内します。ここでは、抄録に掲載した発表要旨を載せておきます。

抄録「二つのアール・ブリュット」へ

民族藝術学会 臨時総会と対話フォーラム

2019年06月26日

6月15日に、私が所属する民族藝術学会の「臨時総会と対話フォーラム」が大阪大学で開催されました。学会誌の大幅なリニューアルを中心とする学会改革の方針についての対話のための会合でした。対話フォーラムでは、最初に学会会長で国立民族学博物館館長の吉田憲司さんが「民族藝術学の新たな展開に向けて」と題して問題提起を行いました。吉田会長のお話は、対象を他者として固定化する「民族芸術」というカテゴリーは設定すべきではないが、人類のあらゆる社会に創造的な営みが存在することを考えれば、グローバル化した現代社会においては、西洋中心主義を脱却しきれていない「芸術学」の枠組みを超えて、人類の普遍的な営みとしての芸術現象を考究する学としての「民族芸術学」の潜在的可能性はかつてないほどに大きいという趣旨のものでした。それを受けて、学会誌『民族藝術』の名称変更が提案・承認され、学会の向かうべき方向について参加者全員による長時間にわたる活発な議論が交わされました。リニューアルされた学会誌は、2020年3月末に発行の予定です。どうかご注目ください。

「山沢栄子 私の現代」展(西宮市大谷記念美術館)

2019年06月06日

ゼミで西宮市大谷記念美術館で開催中の展覧会「山沢栄子 私の現代」を見学しました。団体見学のメリットは、美術館のスタッフ(学芸員の場合もあればボランティアの場合もある)の方から展示の解説をしていただけること。今回も、展覧会を企画した学芸員の池上司さんが、最初に10分ほど展覧会の見どころ解説をしてくださいました。また、見学の最後には学生からの質問に答える時間も取ってくださいました。展覧会は、丹念に作り込まれた見応えのあるもので、じっくりと展示を読み解くと山沢栄子の色や形へのこだわりがよく伝わってきます。学生は時間が足りないと閉館間際まで熱心に鑑賞し、とても充実した見学会になりました。

ちなみに、学生に課したレポートの課題は以下の通り。

(1)展覧会の構成にはどのような特徴がありますか。500字程度で説明してください。

(2)展覧会の出品作品の中から、特に印象に残ったものを2点選び、それぞれどのような作品かを客観的に説明したうえで、両者の違いや共通点など、比較することによって分かる山沢栄子の作品の時代による変化や、作品に込められた意図などを1000字程度で論じてください。

さて、学生たちはどのようなレポートを書いてくれるのか、楽しみにしています。

はじめまして。

2019年06月04日

思うところあって、個人サイトを立ち上げてみました。最大の目的は、調査・整理した作品のデータベースを公開することです。諸権利等の制約で現状では公開できないデータを蓄積しておき、機が熟したら公開するための格納場所でもあります。私が研究領域としている障害者の創作活動は、社会事業的な機能を持つ展覧会事業は盛んに行われる一方、その基盤となる基礎的な作品調査はあまり進んでいません。そもそも、作品の基礎調査に興味のないまま展覧会を開催する企画者すら少なくありません。個人でできることは限られていますが、縁あって自分が調査することになった作品だけでも、基礎資料を公共のものにしたいと考えました。障害者の創作活動における展覧会事業と基礎資料調査の関係については、いずれ稿を改めてどこかで考えたいと思っています。

サイトを立ち上げたもう一つの目的は、自身の活動を整理して振り返ることです。どこかで拙いお話をさせていただいたり、駄文を載せていただいたり、あるいは展覧会に関わらせていただいたりと、様々な活動をさせていただいていますが、それを統合的に確認できる場所がなく、不便を感じていました。論文と学会発表は業績として残りますが、たとえば何かの公募展で審査をしたとか、トークイベントに参加したとか、そうした活動の記録をたどるには、過去の手帳をさかのぼらなければならず、アナログで時間のかかる作業が必要でした。これを機に、そのような活動をすべてこのサイトで一望できるようにしたいというのが、もう一つのねらいです。記録の整理は未完成ですが、徐々にデータを追加していきたいと思います。

このブログのページを作るかどうかは迷いましたが、見学した展覧会の感想など、備忘録的に使おうかと思っています。大学で私が担当する大教室の講義では、授業の最初に5分ほどお勧めの展覧会や面白かったイベントなどについて話すことがあるのですが、それもその場限りで積み重ねがないので、このブログと連動的に運用できないかと考えています。とはいえ、それほど頻繁に更新できるとは思えませんので、最初からあまり目標を高く設定せず、少しずつ書き留めて行きたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。