パリのアール・ブリュット展(2025)
2025年08月26日
久しぶりに、ブログを更新します。自身の覚書です。
パリのグランパレでは、9月21日まで「Art brut. Dans l’intimité d’une collection La donation Decharme au Centre Pompidou(アール・ブリュット:あるコレクションの親密さの内側で、デュシャルムのポンピドゥーセンターへの寄贈)」と題して、作品総数400点を超える大規模なアール・ブリュット展が開催されています。
ブリュノ・デュシャルム氏は、現代のアール・ブリュットの代表的なコレクターの一人です。日本でも、滋賀県立近代美術館(2008)、兵庫県立美術館(2012)、広島市現代美術館(2012)などで彼のコレクションが大規模に紹介されたことがあります。彼が6000点に及ぶコレクションの中から厳選した代表的作品1000点を2021年にポンピドゥーセンターに寄贈し、その一部がポンピドゥーセンターの常設展示における近現代美術の流れの中で紹介されています。今回の展覧会は、改修のため2030年まで休館するポンピドゥーセンターが各地で開催しているプロジェクトの一部で、ポンピドゥーセンターがグランパレに働きかけて実現しました。
本展の構成は、abcdコレクションのキュレーターで、ブリュノ・デュシャルム氏のパートナーでもあるバルバラ・シャファージョヴァー氏がデュシャルム氏とともに構想したもので、11章構成でアール・ブリュットとは何かを考察するものとなっています。
展覧会では、「Art Brut autour du Monde」の章で、日本とキューバとブラジルが取り上げられています。国別にアール・ブリュットを展示すること自体には、彼らは批判的な考えを持っていますが、アール・ブリュットの特徴を考えるうえでヒントになる国を3つ取り上げたとのことです。日本のコーナーでは、森川里緒奈、北野克哉、舛次崇、河合由美子、齋藤裕一、坂上チユキ、西岡弘治、吉川秀明、小幡正雄、澤田真一、松本国三、森田郷士、戸次公明(敬称略)の作品が紹介されています。これだけの日本人の作品がポンピドゥーセンターに収蔵されて、グランパレで展示されているのに、日本の美術館の多くは、いまだに障害者アートと呼んで興味を示さないのはどうしたことかと思います。これも和製アール・ブリュットの負の遺産でしょうか。
もうひとつ特徴的だったのは、「atelier | brut」の章で障害のある人が創作活動を行うアトリエを取り上げていることです。彼らは、作業療法的アトリエと作家の創作をサポートするアトリエは厳格に区別されるべきであるとはしつつも、現代においてアトリエという環境を認めないことは、ここにある多くの作品を見逃すことであり、それは現代のアール・ブリュットにとって有益ではないと考え、優れた活動を行ってきたアトリエとして、ベルギーの「ラ・エス」、アメリカの「クリエイティブ・グロース」、オーストリアの「グギング芸術家の家」を取り上げています。
今回は、企画者のシャファージョヴァー氏の案内で展覧会を見せていただきましたが、彼女によれば、時代順にアール・ブリュットを紹介することは個人コレクターには不可能で、どうしても抜け落ちる部分が出てしまうとのこと。アール・ブリュットは広大で、すべてを網羅することは困難であり、このようなテーマごとの展示構成は必然だとしつつも、古い時代に精神科病院で制作された無名の作家の作品や交霊術による作品群など、アール・ブリュットの歴史や精神医療との関連への目配りも十分で、アール・ブリュットに対する長く深い探究と大きな情熱を感じられる充実した内容です。また、随所に作品やアール・ブリュットについてデュシャルム氏とシャファージョヴァー氏が解説する映像があったり、作家の特徴的な言葉の引用が壁に掲示されていたり、各作家の解説がバイリンガルであったりと、教育的な配慮が行き届いた展覧会でもあります。シャファージョヴァー氏が現代のアール・ブリュットの最も重要なキュレーターの一人であり、研究者であることが実感される展覧会でした。







